これからのしあわせ(現代恋愛)

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 大好きな彼と教会で夫婦の誓いを交わし、沢山のフラワーシャワーを浴びて、祝福の拍手を耳に、人生で一番の幸せの空間に私はいた。心は十二分に満たされていた。でもその数時間後の今、私の心の中を支配しているのは何とも言えぬ寂しさだった。

*      *      *

「どうした?」
 名実ともに、伴侶となった人が覗きこんでくる。
「なんでもない、ちょっと余韻に浸っていただけ」
 心にもない強がりを言って、視線を窓の外にやる。生まれ育った町の夜景が、目と鼻の先にあるはずなのに、何故か凄く遠くにあるように見えた。
「俺と結婚したの……もしかして後悔してる?」
 いつも明るく、お調子者の彼が深刻そうに言ったので慌てて振り返る。
「違うよ! 好きだよ!」
 全力で否定すると、そこには深刻な声とは裏腹にいたずらっぽい笑みがあった。
「……だ、だました……」
「そう返せるなら、大丈夫かな」
 にこにこしながら、旦那様が言う。
(見透かされているな)
 自分の事を解ってくれることへの嬉しさと、そしてこんな日だと言うのに辛気臭い表情をしてしまっていることへの申し訳なさで、顔が熱くなってくる。
「あのね、笑わないで聞いてくれる?」
「わかんない。内容によっては大爆笑するかも」
「……もうっ!」
「ごめんごめん。言って、なんでも」
 わざと軽い口調で話しやすくしてくれているのも、実際話せば最後までちゃんと聞いてくれるのも解ってるから。
 だから私は素直に口を開ける。
「凄い幸せなの。ちゃんと式も挙げて、沢山の友達に祝って貰えて、すごく幸せなの。でもこれで本当にお父さんやお母さんと家族じゃなくなったんだと思ったら……寂しくなってきちゃって」
 言葉にしたら、目頭が熱くなってきた。
「おかしいよね? もうとっくに籍も入れたし、一緒に暮らしてもう三ヶ月近くたつのにね」
 両親とだって、毎日寝食を共にすることはもうないけれども、血のつながりがなくなる訳ではない。しかも私は同じ市内に嫁ぐのだ。いつだって会いにも行ける。ただ書類上で家族ではなくなっただけ。
 でも、何故か今はその事実がどうしようもなく重く押し寄せてくる。
 覆ることではないのだから、気にするだけ馬鹿馬鹿しいと心の片隅では理解してても、湧き上がる感情をどうすることもできない。
「その辺り、女性は大変だよなぁ……」
 そう呟いた彼に、私は敢えて何も応えなかった。
 少しの間沈黙が続いたあと、彼が私を抱き寄せる。
「お前なりに色々思うところもあるだろうから無理強いはしないけどさ」
 言葉を切って、間をおいて、何故か咳払いした後に、再び言葉が紡がれる。
「やっぱ笑顔のお前の方が何倍も見たいからさ、俺とのこれからの幸せを考えてくれると嬉しい」
 明るくてお調子者で……そして不器用な囁きに、心がほんのりと暖かさを取り戻す。
 これからも寂しさが襲ってくることもあるだろう。
 でも今までの幸せを枷にはせず、そしてまた忘れることもせず、いろいろ折り合いをつけていきながら私は、いや、私たちは新たな「これからのしあわせ」を築いていくのだ。きっと。
「ゆっくり一緒に幸せになっていこう」
「そこは幸せにしてやる! っていうところじゃないの?」
「共に慈しみあい、愛するって誓ったろ。一方通行はなしだ」
「……なにそれ」
 熱くなった目頭から、あたたかい幸せの涙が一筋流れた。


後書き。



 この物語はフィクションです。実在の人物、場所とは一切関係ございません。
 関係ないんですよ、実体験など一切含まれていないのですよ(ぇ


 拙作はtwitter上で恵陽さんから頂きましたお題「宴の後」から執筆致しました。
 内容を思い立った時が丁度ジューンブライドの季節だったので、「披露宴後の新婦の心境」を書いてみたのですが、もたもたしている間に7月になってしまいました(苦笑)
 ちなみに私は披露宴、二次会カラオケの流れでくたびれてセンチになる間もなくおねむでしたよ。ええ(笑)


2013.07.18 月島瑠奈拝 (原稿用紙換算枚数 5枚)


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